東京高等裁判所 昭和39年(ツ)59号 判決
原判決の認定した事実によれば、被上告人鈴木勝幸と訴外谷本雅夫との間に、本件土地及びその地上の本件建物の一括売買について話あいが進められ、価格については合計で二十四万円とする話あいができ、谷本は被上告人鈴木の妻こをに対し代金の一部として六万円を交付した上本件土地の所有権移転登記を求め、同女から本件土地の登記済証及び白紙に被上告人鈴木の印章を押捺させたものを受取り、なお同被上告人は、本件建物が同被上告人の継母ハツの所有名義であつたところから、その後これを自己名義とした上谷本に対して再三残金十八万円の支払を求めたというのであるから、他に特段の事情のない限りは、本件土地及び建物につき売買が成立したか、それとも本件建物については未だ売買が成立せず交渉の段階にあつたかはともかくとして、少くとも本件土地については売買契約が成立し、鈴木こをは被上告人鈴木の代理人として、売買代金の支払を受ける意思で六万円を受領し、かつ売買契約の履行として谷本に本件土地の所有権移転登記を受けさせるため登記済証等を交付したものと認むべきであつて、右六万円が売買代金の全額にあたらないとしても、遅くとも登記済証等の交付の時期には本件土地の所有権は谷本雅夫に移転したものと解すべきであり、そして、谷本が本件土地の所有権移転登記を急ぐ事情につき鈴木こをに虚構の事実を告げたこと、被上告人鈴木夫婦が本件建物を残し本件土地のみを売却する意思のなかつたことその他原判決の掲げる事情は前記の特段の事情と解することができない。しかるに原判決がその認定の事実からすれば本件土地の所有権は未だ谷本に移転していないと判定したのは、本件土地についての売買契約が未だ成立していないというのか、売買は成立したが契約において定めた所有権移転の時期が到来していないというのか、また後者としても、所有権移転の時期は、代金二十四万円全額支払のときであるというのか、土地建物の双方の登記に必要な書類の交付のときであるというのか、或いは又鈴木こをが六万円を受領し登記済証等を谷本に交付したのは被上告人鈴木の意思に反したものであるから所有権移転の時期が到来していないというのであるか、原判決が未だ所有権が移転しないとする根拠は奈辺にあるのか全く捕捉し難いのであるが(原判決が被上告人は本件土地につき所有権移転を留保したとした点もその趣旨が判然としない)、いずれにしても右の判定は不当であつて、原判決には理由不備又は理由齟齬の違法があるものといわなければならない。
(牛山 岡松 今村)